家畜化の定義の一つに、繁殖を人間がコントロールするということがある。そういう意味では、イヌはヒトと暮らし始めた家畜化の比較的に早い時期から、ヒトが繁殖をコントロールして大きさや姿形をさまざまに変えたり、特殊な能力を引き出すための人為的な育種選抜を繰り返してきたと考えられている。現在では、広く普及している代表的なものだけでも約140種の犬種が知られており、さらに全世界には500種類以上の犬種が存在するといわれるように、一つの種としては大きさも形も実に変異に富むユニークな動物になっている。
ヒトと共に暮らす動物たちが示す行動は、基本的には野生の先祖種である動物種の示す行動とよく似ているが、家畜化の過程で大きく変化した行動も少なくない。たとえば動物を人間が飼いはじめたときのことを想像してみよう。てもとに残すために選ばれた動物は、おそらくもっとも大人しく、また人に馴れやすい動物だったはずである。警戒心が強かったり、攻撃的な動物は除外されていったと思われる。家畜化の過程で動物の行動パターンに大きな影響を与えた要因としては、こうした人為的な育種選抜ばかりでなく、野生では生活のほとんどの時間を費やしていた食糧の獲得が飼い主からの供給によって不要となり、さらには管理下におかれることで安全も提供されるといった環境の大きな変化もあげられる。そのため、私たちに身近な動物の行動を理解するためには、次の二つの考え方が大切である。まず一つは、野生の先祖種の行動について、彼らが暮らす自然環境(そこには餌や敵がいて季節による天候の変化もある)のなかで、どうして種に特有の行動が進化してきたのかを考えてみること。そうすれば彼らにとって正常な行動が何かということと、その理由が見えてくるはずである。そして二つ目は、人間と共に暮らすようになったことで、行動的にどのような変化が起こったかを考えてみることである。その変化の原因は、人間の都合による育種選抜もあるだろうし、厳しい自然淘汰圧を免れたことによる変化もあるだろう。こうした生態学的そして適応進化的な考えに立って動物を眺めてみようとする姿勢を身に付けることが、動物行動学を学ぶ上ではなにより大切である。
参考図書
書名 (著編者・出版年) 出版社
動物看護のための動物行動学(森・武内著2004) ファームプレス
イヌとネコの問題行動治療マニュアル(武内・森著2001)ファームプレス
動物行動学入門(ハート・森訳1995) チクサン出版
動物行動医学(オーバーオール・森監修2003) チクサン出版
ザ・ドメスティック・ドッグ(サーペル・森監修1999) チクサン出版